2021年の振り返りと2022年の展望

ちょっと今さら感があるけれども、人のを読んでいたら自分も書きたくなったので。

2019年以降、人生の大まかな方針として「自分と家族を大切に、心に余裕を持つ」というのを継続している。
その上で2021年の年初は、こんな1年にできたらいいなと思っていた。

  • 夫に感謝し穏やかに暮らす、できれば妊娠
  • 趣味の学びを深める
  • 思ったこと、考えたことを形にする

じゃあ実際どんな1年になりましたかというと。

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5年連用日記を書いてよかったことと、続けるコツ

2020年から始めた5年連用日記が3年目に突入した!

これが結構楽しい。去年、一昨年の今頃の自分は何をしていたのか?世の中にはどんなことがあったのか?夜、その日の日記をつける時に読み返してみると面白くてついつい読み込んでしまったりする。

使っているのは高橋書店の5年連用日記。
こういうどっしりとしたアイテムは、安定供給されそうな会社のものを選びたくなる。 www.takahashishoten.co.jp

5年のうちの3年目なのでまだ半分にも達していないけど、やや軌道に乗ってきた感じがする。2年間日記を書き続けるって、自分としては結構な偉業。
せっかくなので自分なりの続けるコツや日記を書き始めてよかったことなどを書いておこうと思う。

  • 続けるコツ的なもの
    • 考えずに書けるネタを1つ持っておく
    • 空白を恐れない
    • 1年目は「来年、再来年の自分に楽しさを提供してあげる」気持ち
  • 書いてよかったこと
    • 自己肯定感が増す気がする
    • 自分と暮らしについての知恵が溜まる
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「怖いのは本気で苦手だけどInscryptionをプレイしたい人」向け、3つの警告

各所で絶賛されているゲーム"Inscryption"。「絶対にネタバレは見ないでプレイするべき!」とか「ストアページも見ない方がいい!できるだけ前情報ゼロでプレイすべき!」とか言われている。
私は慎重にネタバレを回避しながら「"Slay the Spire"に似たデッキ構築系カードゲーム」「ホラー」「自然×呪術っぽい雰囲気」という情報だけを得た。ホラーが苦手なので迷ったものの、あまりに絶賛されていて気になったし、"Slay the Spire"は好きなゲームだし、「この系統(自然×呪術系)のホラーであれば大丈夫だろう」と思えたし、思い切ってプレイしてみた。

そして先日クリアしたのだけど、ゲームとして楽しめた反面、正直に言うとプレイしたことを後悔もした。
まぁ詳しくは別の記事で書こうと思うけれども、後悔した理由の一つはホラー要素に関して。
ゲームの内容を知らずに(=ネタバレを回避して)プレイするということを選んだのは自分なので自己責任だと思うけれども、もう少し心の準備ができればよかったなと思う。
ネタバレをできるだけ回避しつつも、どういうホラー要素があるのか知っておくことができれば、もう少しショックを和らげつつ素直にゲームを楽しめた、と思う。

そんなわけで、「怖いのは本気で苦手だけどInscryptionをプレイしたい人」向けに、3つの段階的な警告を伝えたい。
ゲームをプレイするかどうかの判断や、プレイする時の衝撃緩和のクッションになればいいなという気持ちを込めて。

1つめはストアページを見ればわかる程度だけど、知らないと結構ダメージを食らいそうな内容を書いておく。
2つめはネタバレになるものの「どういう系統の怖さがあるか」書いておく。
3つめはゲームの核心に迫ってしまうけど私にとってはかなり怖いところだったので、超絶ビビりの人のために書いておく。


以下、ゲームの楽しさを100%受け取りたい人は読まないでください。ゲームプレイは楽しみたいけど、ホラー要素は怖いので事前に多少知っておきたい人向けの内容です


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2021年11,12月に読んだ本。作りたい女と食べたい女、きのう何食べた?、Shrink 精神科医ヨワイ、旅する練習など

11月、12月読んだのは12冊。そのうち漫画が5冊。漫画5冊がめっちゃよかったな。

感想はネタバレ込みです

きみは赤ちゃん

読みながら色々考えたので別途記事に書いた。
nappyon.hateblo.jp

Shrink 精神科医ヨワイ(7)

10月に6巻の感想を書いたけど(2021年10月に読んだ本。カラーひよことコーヒー豆、ことばと思考、和菓子職人 一幸庵 水上力、Shrink 精神科医ヨワイ、ブルーピリオド - 日常が7で非日常が3くらい)、かなりハマっている漫画。
6巻でアルコール依存症編が完結して産後うつ編が開始したので、7巻もとても楽しみにしていた。

産後うつ編も、様々な社会的サポートが紹介されつつ、一つ問題が解決したからすっきり解決…というわけにはいかないところが作品としてよかったなーと思う。
クライアントの気質とか環境だけではなく、社会的な構造の問題も描いていて、色々なところに目配りしながら描かれてる漫画って感じがする。ちょっとステレオタイプ的な人物の描き方だな~と思ったりする箇所もあるけど、主要な人物とその周辺の問題についてはすごく真摯だと思う。

産後うつ編を読んで改めて感じたのは、産後の夫婦の体力や精神面の差、環境の違いなどは本当に怖いしすれ違いを誘発するということ。
弱井先生の「隣にいるのは敵ではなく一番の味方のはずだ」という言葉は心に刻んでおく。『きみは赤ちゃん』の感想にも書いたけど「だんだん世のなかの「男全般」や「男性性」というものが本当に憎くなってくる」メンタルに陥る気しかしないので…。

あと、7巻で面白いなと思ったのは、「隣にいるのは敵ではなく一番の味方のはずだ」というメッセージを伝える物語の次にDVが描かれたこと。
家族の支え合い的な美談がフィクションにしてもノンフィクションにしてもたくさん存在する世の中だなと思うけど、この漫画は家族はあたたかいだけのものじゃない、逃げてもいいんだってことも描いてくれるからそこがいいよなと思う(パーソナリティ障害編でも、アルコール依存症編でもそうだった。後者では逃げ道を確保しつつ支えるという形になっていたけど)。

honto.jp

作りたい女と食べたい女(1)(2)

Twitterで読んで、いいなと思ってたので購入。

2人の人間の「作りたい」「食べたい」という欲がかみ合って、欲だけじゃなくて人としての思いやりも重なり合って関係を丁寧に構築していく…めっっちゃ素敵な漫画。

ファーマーズマーケットで「存分に買ってください」と言う春日さんが最高すぎた。野本さんがやりたいことをわかってくれてるんだなぁと感じる。
そしておでん回の野本さんがわたわたして言葉を重ねているのがめちゃくちゃかわいい。少女漫画でめっちゃ理由つけてデートに誘うあれ!と思った。

1巻では女としての生きづらさや憤りも描かれており共感するところが多かった。全部モテに回収しないでくれ…とか、ご飯を女だからって勝手に小盛にしないでくれ…とか(これちょいちょいあるけどムカつき度かなり高いんだよね…)。

そして2巻では野本さんが自分の「好きだ」という気持ちを肯定できたり、2人で年越しをしたり…色々なことがググっと進んだ。
2人の部屋の間の空き部屋に入居者が来た…?ということもあって、2人の関係以外の変化も感じる。

クリスマス~年末にかけての2人の空気がめっちゃいい感じで、2人がこの先どうなっていくのか楽しみで仕方ない。

honto.jp

きのう何食べた?(18)(19)

この漫画、漫画の中で着実に時が流れ続けてるのがすごくいいよな~と思う。

特に19巻のピーマンの肉詰め回がぐっときた。修先生が教官をすることで自分が多忙になるかも…とシロさんから聞いたケンジが、すまなそうな顔を穏やかそうに見つめて、でもシロさんはそうしてあげたいんだよね、とシロさんの気持ちを汲んであげて、「まあそうなったら今度は俺が毎日晩ごはん作ってシロさんのこと待っててあげるからさ~~」と答えたところ。
これまでにも色々な転機は描かれてきたけど、そういう変化を受け入れて2人の役割も変えながら生活していける、だから大丈夫っていう信頼と柔軟さを感じる会話だった。

老いの話も含め、パートナーと今後も人生を共にしていく上でのお手本のような漫画だと感じる…。

と思うと同時に、18巻での夏休み前日のシロさんからの大事な話。
シロさんとケンジのかみ合わない部分をコミカルに描きつつ、同性カップルの権利が保障されていない日本の問題を描いている。
パートナーと生きる上でお手本にしたい漫画だと感じると同時に、自分は異性のパートナーと結ばれたがために得られている権利は、相手が同性であるというだけで得られなくなってしまうんだよな…と。
漫画を楽しむだけじゃなく、そこで描かれた問題について現実でも関心をもって行動しないといけないなと思う。投票だけじゃ足りないよねぇ…。。

そして大晦日回、素敵だった~。年末年始のルーティンってなんかあるよね。シロさんの実家の件では色々あったけど、そういうのも超えて2人の形みたいなのができあがっていくのがいいな~って思った。

ちょうどこの漫画を読んだ数日後に「栗きんとん作るぞ~!」とウキウキさつまいもを茹でて裏ごしして腕の痛みに苦しんだ。「裏ごしがしんどいって描いてあったのにすっかり忘れてたな…」と、裏ごしをしながら思いだした。

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旅する練習

描かれている内容もいいなと思ったし、旅小説としても面白かった。

「いまここにしかない時間」「いまここで自分しか目撃していない景色」について思いを抱くことがしばしばあるので、そういった視点に共感しながら読んだ。
そんな時間や景色が無数に存在している世界で、人は何を残すことができるか?
歴史にも残る大きな業績や人々の日々の行為が残す見えるものから見えないものまで、何かを残すということについて切実な願いを込めて描かれているように感じられた。

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暮しの向付

『食べたくなる本』で辰巳芳子という名前を見たので、この本が目に留まった。辰巳芳子が編集した、母の辰巳浜子の随筆集。
随筆は四季ごとにまとめられており、年末の台所仕事の文章があってちょうど年末だし読んでみることにした。

「昔から天皇様が何かされる日はお天気にきまっていた」とか「最近のミセスは酒のかんもできない自分を棚に上げて…」みたいな、思わず読みながら「おお…」と声を上げてしまうような時代を感じる箇所もありつつ、ごまめ、八つ頭、ずいき、とこぶし…知らない言葉を調べつつ楽しく読めた。

ひとつ面白かったのが、「お正月」という文章のこの部分。

 故柿沼桂堂博士は「人間にとって最後まで残される幸せのひとつに味覚の喜びがある。足腰が立たなくなっても味覚の感想は衰えない。むしろ老境に入ってますます進歩する事実を度々見ることがある。これは老人にとって最大の救いであり、神のお恵みでもある。それ故、老人の食いしん坊を、おかしいと笑ってはなりません。つとめて色々の物を食べさせて上げる事こそ大切であり、当然でもある」とうかがいました。(p.132)

現代とはまた老人のイメージも違うのだろうが、「本当か…?」と疑ってしまった言葉。ただ、読んでいるうちにこの柿沼氏が食いしん坊で美味しい物を食べたかったようにも思えてちょっとおかしくなってしまった。

その他の部分も色々と興味深かった。日々の生活に密着した暮らしの随筆を読むと、世の中が随分変わったのだということがよくわかる。生きている時代の近い筆者によるエッセイ・随筆を読むのも面白いけど、昔の随筆集を読んでみるのも面白いものだと思った。

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『きみは赤ちゃん』と『夏物語』

川上未映子が妊娠してから出産し、子が1歳になるまでの日々を綴ったエッセイ『きみは赤ちゃん』を読んだ。

私はもうすぐ臨月くらいなので、ちょうどこのエッセイの中間の地点くらい。いいタイミングで読めたかなと思う。
前半の出産編(妊娠~出産までの部分)はこれまでの自分についても振り返りながら「わかる、めっちゃわかる…」というところも「さっぱりわからん!」というところもあって楽しく読めた(ただし陽性反応が出るまでのくだりは、妊娠まで時間がかかった人とか、不妊治療まで進んだ人が読むには少しつらいかもしれない。自分は読んでいてちょっとつらくなった)。

そんな風に自分に重ねて読んだところもありつつ、今年の夏に読んでやや消化不良となっていた『夏物語』で描かれていたのはこういうことだったのか、と気づくようなところもあって、面白い読書だった。

※以下、『夏物語』の結末に触れているのでご注意

特に「生みたい気持ちはだれのもの?」という一篇の「だってすべての出産は、親のエゴだから」という言葉。
『夏物語』を読んだ後の感想で「結局、主人公にとっての出産は「会いたい」という一方通行の気持ちによって成り立っているものだった。エゴでしかないのだ、という終わり方だと感じた」と書いたんだけど、やっぱりその解釈は間違ってなかったのかなーと思った(感想はここに書いた→9月に読んだ本。とにかく散歩いたしましょう、批評の教室、夏物語、菜食主義者 (新しい韓国の文学 1) など - 日常が7で非日常が3くらい)。
そして読んでいて引っかかったのは、夏子がAIDについては色々と悩んだり葛藤して、自分なりの答えを出そうとしているわりに、産むということについてはストレートに自分の気持ちに沿って進んでいった印象だったことなんだけど、それについてもこのエッセイを読んだらすっきりした感じ。

そして「なんとか誕生」の最後の文章が「会いたかった」「会えてうれしい」という感情の爆発のようだったことも、『夏物語』への納得感につながったように思う。
自分は子どもを産んだ時にここまでの気持ちを抱けるのだろうか…?という不安、あるいは、自分がここまでの気持ちに到達したとしてそれはそれで恐ろしいな…というようなおののきを感じたけど、なんにせよ、このような強い感情を抱いた人が書いたのが『夏物語』なのである、ということは読後のモヤモヤした気持ちの解消にかなり効いたような気がする。


後半の産後編に関しては、『夏物語』との関連というよりは今後の自分へのエールや戒めというような気持ちで読んだ。

たとえば、この文章なんかは心の器からストレスがあふれ出しそうになったら目に入るようベビーベッドやおむつなどの収納場所にペタッと貼っておきたい。

 どの時期にも、ぜったいに回避しないといけないことはあるけれど、命にかかわらなければ、つねにぎりぎりの気持ちになる必要はないのだと。喉にものをつまらせないように、どこかから落ちたりしないように、目を離さない。これだけを必須のこととして、あとは正解はないのだから、ということで、精神的にマイルドにやっていかなければ、なにもかもが不幸になると思ったのだった。(pp.243-244)

あとは、産後の夫婦関係についての文章は「めっちゃ自分もそうなりそう…」って感じたので、戒めとして読んだ。

真夜中の授乳待ちのときなどに様々なお母さんの日々の記録を読むようになったという筆者のこのあたりの感情が、つわりで苦しんでいたときの自分の感情とめっちゃ重なった。
つわり中、ベッドで横になって世の中…というか男性優位な社会を憎んでいた自分。あの時は孤独を感じていたけれど、似たようなことを考えていた人もいたのだと思うと少し心がすっとした。

 少しでも時間があると、いろいろなお母さんたちの日々の記録を読むようになった。
 ほとんどは真夜中、オニの授乳待ちのとき。みんながそれぞれの人生を生きてるんだけど、でもみんな、やっぱりよく似たしんどさに耐えていた。
 女性や母親が男性や社会から植えつけられた先入観を、どれだけのながい時間、文句もいわずにあたりまえのこととして生きてきたか。これからも生きてゆかねばならないのか。そんなの、これまでだってさんざんわかっていたはずなのに、あらためてその壮絶さが頭をめぐって、怒りややるせなさで、本気で鼻血がでそうになるのだった。
 それがどんな問題であっても、安易に一般化するのを避けて、本当はいつだって「個人」を基本にして考えなければならないのに、そういう真夜中をひとりきりでえんえんと過ごしていると、だんだん世のなかの「男全般」や「男性性」というものがこれ、本当に憎くなってくるのである。そして、これまで女性や母親が味わった苦渋やなめさせられてきた辛酸を、おなじように思いしらせてやりたくなってくるのである。(p.229)

心がすっとしたと同時に、産後もこのような精神状態に陥る可能性がめちゃくちゃ高いことが恐ろしい。夫は敵ではなくて仲間なのだ、どんなにつらくても男性に対する怒りを夫に対してぶつけてはいけないのだということを忘れないようにしなくては…。と思う。


と、まぁこんな感じで『きみは赤ちゃん』を読んで色々考えた。
子どもを産む前に読めてよかったなぁ。子育て中につらくなったらまた読み返したい。

一番心に残ったのはこの部分だった。

 たしかに眠ってなくてほぼ限界だし気絶するほど眠いけど、でもこの時間、この子のこの顔をみつめているのはたったいまここにいるわたしだけで、世界中に、いまここにしかない時間なのだ。
 この子はきっと、すぐに大きくなってしまうだろう。こんなふうにわたしに抱かれているのも、あっというまに過去のことになってしまうだろう。誰にも伝えられないけど、でもわたしはいま、きっと想像もできないほどかけがえのない時間のなかにいて、かけがえのないものをみつめているのだ。そして、夜中を赤ちゃんとふたりきりで過ごしたこの時間のことを、いつか懐かしく思いだす日がくるのだと思う。(p.171)

先日読んだ『旅する練習』が「いまここにしかない時間」「いまここで自分しか目撃していない景色」を何らかの形で残すことについての願いがこもっているような物語だと感じたことを思い出した。
世界中にあらゆる形でこうした時間が存在するんだよなぁ…と思うと気が遠くなってくる。

そして「最後とは知らぬ最後が過ぎてゆくその連続と思う子育て」という俵万智の言葉も浮かんだ。

子どもが産まれてからの日々は急速に過去になってゆくかけがえのない時間で、そこかしこに最後とは知らぬ最後が散らばっているんだろうな。
子どもがいない日常だって、かけがえのなさも、最後とは知らぬ最後がそこかしこにあることも同じだけれど、きっとその密度が段違いなんだろうなと想像する。

そんなことを考えた2021年末~2022年のはじまりだった。
2022年、よい年になりますように。

2021年10月に読んだ本。カラーひよことコーヒー豆、ことばと思考、和菓子職人 一幸庵 水上力、Shrink 精神科医ヨワイ、ブルーピリオド

10月に読んだ本は6冊+ブルーピリオド11冊一気読み。
面白かった本の感想。

カラーひよことコーヒー豆

9月にも小川洋子のエッセイを再読したけど(9月に読んだ本。とにかく散歩いたしましょう、批評の教室、夏物語、菜食主義者 (新しい韓国の文学 1) など - 日常が7で非日常が3くらい)、今月も1冊。

こちらは『とにかく散歩いたしましょう』に比べると、働くことについてのエッセイが多い印象。「Domani」の連載だからかな。
小川洋子作品でよくモチーフになる「世界の周縁に身を置く人」について書かれたものが多くて、これを読むと小川洋子作品への理解というか、彼女が作品を通して描いているものに少し近づける感じがした。
11月に参加した小川洋子トークイベントで、自らが担う役割を果たす人・何らかの仕事を全うする人というのに魅力を感じる…と話していたけど、その感覚がこのエッセイ集にも現れていると思う。読者にエールを送るような、読者宛の現実的なエッセイであると同時に、彼女の小説の世界観も現れている…という感じ。

「理想の一日」という一篇がとても面白くて、笑いながら読んだ。オチが良い。これを読んだ日、私も眠る時に理想の一日を思い描いてみたけど、お昼ご飯を食べる辺りで寝てしまった。とても幸せな眠り方を教えてもらえて良かった。
小川洋子のエッセイは、読むと日常の愛しさに気付けるので元気が出る。

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ことばと思考

今年どハマりしている今井むつみの本。『ことばの発達の謎を解く』、『英語独習法』に続き3冊目。
「言語と思考の関係」「ことばの発達」「学びと教育」が研究テーマとのことだけど、この本では「言語と思考の関係」が掘り下げられている。
ことばは人の世界の見方、認識、思考とどのように関わるのかについて、発達心理学認知心理学脳科学の観点から語られる。

世界中で話される言語や人々の認識の普遍性についてや、逆に違いについて面白い例がどんどん出てくるのが楽しい!
そうした例を取りつつ、「言語が異なることによって、人の認識や世界の見方、思考は変わるのか?」という問いについて「言語によって世界の見方は多少変わってくる」としている。影響が全くないわけじゃないし、全然違う考え方をしているわけでもない、と。
それについては「まぁそうですよね…」という感じだけど、「言語が異なるかどうかよりも、言語を知る/学ぶ前と後」で世界の見え方や認識、思考が大きく変わるということが面白い。ここで「言語と思考の関係」「ことばの発達」が重なってくるんだな。『ことばの発達の謎を解く』と合わせて読んだのでこの辺りが理解しやすくて良かった。

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和菓子職人 一幸庵 水上力

白央篤司がインスタで「千葉さんの本を読んでみよう」と言っていたので、気になって私も読んでみた。

日本の文化をお菓子で支えるという想いを感じる本だった。家庭で失われた習慣を、菓子屋が踏ん張って伝えるんだ、と。
こういうお菓子屋さんに通いたいな~。

修行では、言葉で説明するのではなくて本人が気付いて感じられるまで待つ、技術を学ぶだけではなくて主人がどんなことを考えているか肌で感じる、というような、修行についての話も面白かった。

 「これだ!」と思うようなものを作れるまでに十年。旦那は「こうするんだ」とは教えてくれない。注意はされる。ある日「これだ!」とわかる瞬間がきた。そこからは、それが基準になる。わかる人は五年でわかるし、一生かけてもわからない人もいると思う。

最近中国茶のレッスンに通っているのだけど、その先生もあまり言葉では語らない。「言葉でわかった気になっちゃうから」「いいお茶を飲み続けることで、お茶が教えてくれる」といつも言われている(ちなみに、「わからないままレッスンを終えてしまう人もいる」とも言われている…)。
職人の修行って古くさい、みたいなイメージもあるけども、感覚を身につけさせる一つのやり方なんだなと思ったし、今自分がお茶のレッスンで学ぼうとしているのもその類のものなのだな…と気付くことができた。

あと面白かったのが、お菓子を作る時に一つの原材料で作るのではなくていくつかを混ぜて平均値を取る、そうしていつも同じ味のものが出せるようにする、という話。
ワインとかは「この年はこういう特徴があります」って感じでいつも同じ味ではないことが一つの面白さだと思うけど、そういうものとは違う思想なのかなーと思った。それも、お菓子は茶請けであって茶をうまく飲ませるものだ、主役ではないのだという前提があるからなのだろうか。

青木定治との対談もよくて、いい一冊だった!

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Shrink 精神科医ヨワイ(6)

かなりハマっている漫画。

あまり有名ではない気がするので一言で紹介すると、精神科医療版のコウノドリみたいな漫画(ちょっとざっくりすぎるか…)。
クライアントの生活にもかなりスポットライトが当てられて、医療に限らない様々な社会的サポートについても描かれる。

5巻から続くアルコール依存症編が完結した。アルコール依存を受け入れられないクライアントの父もまたアルコール依存だった…という形で、当事者だけではなくその家族の苦しみも描いている。そして当事者へのサポートだけではなく、周囲の人が受けられるサポートについても取り上げているのがいいと思う。
こういった問題を抱えた親子の関係が描かれるとなると「自分を傷つけた親を子は許さなくてはならないのか?」という話もあると思うけど(親を子が許す形で終わる作品が多い印象)、この漫画は「許さなくていい」というメッセージを何度も発しているのでいいなと思った(私は親との関係で大きく傷つけられたことが幸いにしてないので、判断が甘いかもしれないが…)。

あと、底つき体験が必須ではないと考えられるようになってる…とか、イメージと違う話が色々出てきたのが面白かった。軽症のうちにアプローチする、まずは断酒ではなく減酒から、とか、アルコール依存の治療について最近はこういう選択肢もあるんだな~というのがわかって良い。
漫画関係ないけど「アルコール低減外来」についての記事があったので貼っておく。
toyokeizai.net

そして新たに始まったのが産後うつ編。こちらもまた自分に近いテーマなので楽しみ!

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ブルーピリオド

Webでちまちま読んでいたのだけど、hontoでまとめ買いセールをしていたので購入して一気読み!

いやー面白い、何かに夢中になって極めるということをしないで生きてきた大人には登場人物たちの熱さが刺さる…!
青春芸術漫画というか、熱血芸術漫画というか。芸術の見方とか歴史も出てくるけど、そこの配分が大きすぎなくてあくまで芸術に向き合う若者たちと大人たちの漫画になってるのがいいなって思う。しかもそういう話が唐突に出てくるんじゃなくて、ちゃんと物語のピースとして出てくるし。
スポーツじゃない分野でのこういう漫画ってあんまりない気がするから、こんなに面白い作品が存在してくれることが嬉しい。

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今月読んだ中では『和菓子職人 一幸庵 水上力』が中国茶レッスンにも通じる内容だったのが良かった。修行ってピンとこなかったしいいイメージなかったけど、今自分がやってることって多分修行に近いものなんだな~と気付けたのは大きい。
そして自分が日本の文化を全然知らない…ということを改めて感じた。他国の文化に惹かれる気持ちを否定することもないと思うけど、そもそも日本の文化についてはそれと同じスタートラインにすら対象を置いていなかったのではないかという気がした。
この本を読んでから、ちょっと日本の文化を意識した生活をしてみている。なかなか難しいけれども!

2021年9月に読んだ本。とにかく散歩いたしましょう、批評の教室、夏物語、菜食主義者 (新しい韓国の文学 1) など

7冊読んだうち、特に面白かった4冊について書く。

※3,4個目の『夏物語』と『菜食主義者』についてはネタバレあり。

とにかく散歩いたしましょう

「女友達って最高だよね、大事だよね」という内容がちょくちょく出てくる本を読んだら悲しくなってしまったので、「本が友達」と言ってくれる本を読もうと思って再読した本。
人や動物との関わりも描かれてるけど、それと同じかそれ以上に本との交流も描かれていると思う。
本との出会い、交流をとても大事なものとして愛おしそうに語ってくれるので「そうだ、本はこんなにも人生に喜びをくれるんだ」と再確認することができる。私も小川さんのように本を愛したいなぁ。

小川洋子のエッセイは世界に対する目の向け方がとてもあたたかくて、優しい気持ちになれる。一篇が短くて文章も難しくないし、ちょっと心が疲れたなという時に読むのにとてもいい。

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批評の教室──チョウのように読み、ハチのように書く

どのように作品を読み、分析し、書くかをまるっと指南してくれる手軽だけどしっかりした一冊。
「今は普通に作品単体を楽しんでいるだけだけど、作品について少しでも語ったり、言葉にしてみたい」とか「大学で批評系レポートを書きたい、書く必要がある」とかいう人にいい本かな。私は前者にあたる。

書いている内容は基本的な当たり前のこともあると思うんだけど、説明する文章や例示の分析が面白くて、笑いながら楽しく読めた。こんな風に、いろんな切り口から作品を楽しんで、見つけたことを言葉にして人と交流できるって、豊かだなぁ~と思う。
少しずつでも実践して、様々な作品をもっといろいろな視点から楽しめるようになれたらいいなー。

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以下、『夏物語』と『菜食主義者』についてはネタバレあり

夏物語

かなり落ち込む読書だった。

私はこの本を読んだ当時から妊娠中だが、立場としては反出生ではないにしても「赤ちゃんが産まれるのは幸せなこと」というのにはやや懐疑的…というか、手放しにはそう思えないタイプの人間だ。思春期に精神的にバランスを崩して、母親に対して「なんで産んだんだ、こんなにつらいなら産まれたくなかった」と怒りをぶつけたこともある。
同じような気持ちを子どもが抱くかもしれない、そしてそれが解消されないで苦しむかもしれない、そう思うと、子どもを産むという行為の重大さが恐ろしい。

そう思っていたので、もしかしたらこの本を読むことで何らかの答えや救いを得られるかもしれない…と思いながら読んでしまったところが少しある。

私の考え方は、物語に出てくる善さんの「子どもを産むという行為は賭けである」(子どもが産まれてこなければよかったと思わない保証はない、産む側は、そう思わないでいられる方に賭けているが、その賭けが外れた時に苦しみながら生きていくのは産まれた子の方である)と「もう誰も起こすべきじゃない」というものに近かった。
なので、主人公と善さんの対話があった後、主人公がこの考え方に対して自分なりの答えを出すのだろうか?と期待しながら読んでしまったのだが、実際はただ主人公が「産む」という行為を行うだけだった。
AIDについてはあんなに理屈をつけて考えていた主人公だけど、子どもを産むという賭けを自分が行うことに対しての理屈みたいなものは一切描かれていなかった。
そこを掘り下げることも、それに対して何か主人公が思い悩むこともなく、ただただ、主人公が「産む」。そして、それに伴って柔らかで幸せそうな感覚を感じている。
結局、主人公にとっての出産は「会いたい」という一方通行の気持ちによって成り立っているものだった。エゴでしかないのだ、という終わり方だと感じた。
善さんの言葉に答えられるような思考や言葉はなく、ただそこにあるのは親のエゴだけ。
子どもを産むという行為が恐ろしく、何らかの答えや救いを得たい…そう思ってしまっていた私には手痛い終わり方だった。
そんなわけで、読み終わったら落ち込んでしまった。けど、ずっしりした物語を読むという行為そのものに癒された感覚はある。読み応えのある物語だった。

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菜食主義者 (新しい韓国の文学 1)

3つの連続する短編が収められた短編集。

1篇目の「菜食主義者」では、暴力からの逃れえなさが描かれていてとても悲しかった。
ヨンヘは夢を通じて肉食という行為が持つ暴力性にとらわれて苦しめられ、そこから逃れたいがために菜食になりたいと願っているのだと思う。
菜食によってその暴力性から逃れられるのかはさておき、ヨンヘがやりたいことは自分が食べるものを自分の好きに決めるということ。なのに、肉体的にも精神的にもあらゆる人から傷つけられる。時には愛をもって身内から傷つけられ、精神科に入院してもなお、嘘を吐いてまで肉食を強要される。
暴力から身を引きたいだけなのに、暴力によって引き戻されてしまう。あまりにも悲しくて泣いてしまった。

2篇目の「蒙古斑」は難しかった…。読んでいる途中は、ヨンヘの願いを理解できる人もいるんだな、なんて気持ちで読んでいたんだけど、途中から「わたしはYの視点で物語を読んでいる。性犯罪者が『自分は相手のことを理解している。相手も望んでいたことだ』と思考するような流れに無批判に乗っかっているのではないか?」という考えが浮かんできて、怖くなった。
Yの妻が行ったことが、ヨンヘとYに対する無理解の暴力だったのか?それともYが行ったことがヨンヘに対する暴力だったのか?ちょっとどう読めばいいのかわからなくなってしまった。おそらくYの行為は動物的な暴力ではなく、植物を指向するヨンヘに近いものだと読んでいいんだろうけど…。

3篇目の「木の花火」はヨンヘの見た夢の闇に一緒に沈んでいく…というか、そもそも自分が立っていた場所もヨンヘと同じ闇の中だったと気づいてしまうような話だった。けど、一番綺麗な話だと思ったな。空気がピンと張った冬の朝、踏んだらすぐにくしゃっとなってしまう霜のような、綺麗だけどもろくて儚い感じのある文章だった。
生きるとは、幸福とは、平穏とはいったい何なんだろうなあ…と考え込んでしまう物語だった。

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9月はとにかく、8月から読んでいた『夏物語』を読み終えたのが大きかった。しばらく落ち込んで、そのことについて考えていた。
小川洋子のエッセイを読むことで、落ち込みからは回復した感じ。こういう癒されるお決まりの何かがあるというのはいいね。

あと、『ゴールデンカムイ』無料公開が行われていたのでそれの一気読みもした。
歴史物としてかなり激アツ。「これでチタタプしてもいい?」(127話)が最高。
でもTwitterとかでバズってた「めっちゃ地獄だから心して読め!」とみたいなのはちょっと言い過ぎというか、そこまで地獄っぽいつらさは感じなかったな…最初は「いつになったら地獄になるんだろう?ワクワク」と読んでいたから物足りなさを感じてしまったけど、途中から「たぶん別に地獄ではないな!」と気付いて割り切ってから素直に楽しく読めるようになった。
読みながら「しかし現在は…」と現実のことを考えるとめちゃくちゃ暗い気持ちになるけど。
ゴールデンカムイ』と『ヴィンランドサガ』は物語…って感じのする熱い壮大な歴史漫画だなと思う。無事に完結してほしい。