2021年10月に読んだ本。カラーひよことコーヒー豆、ことばと思考、和菓子職人 一幸庵 水上力、Shrink 精神科医ヨワイ、ブルーピリオド

10月に読んだ本は6冊+ブルーピリオド11冊一気読み。
面白かった本の感想。

カラーひよことコーヒー豆

9月にも小川洋子のエッセイを再読したけど(9月に読んだ本。とにかく散歩いたしましょう、批評の教室、夏物語、菜食主義者 (新しい韓国の文学 1) など - 日常が7で非日常が3くらい)、今月も1冊。

こちらは『とにかく散歩いたしましょう』に比べると、働くことについてのエッセイが多い印象。「Domani」の連載だからかな。
小川洋子作品でよくモチーフになる「世界の周縁に身を置く人」について書かれたものが多くて、これを読むと小川洋子作品への理解というか、彼女が作品を通して描いているものに少し近づける感じがした。
11月に参加した小川洋子トークイベントで、自らが担う役割を果たす人・何らかの仕事を全うする人というのに魅力を感じる…と話していたけど、その感覚がこのエッセイ集にも現れていると思う。読者にエールを送るような、読者宛の現実的なエッセイであると同時に、彼女の小説の世界観も現れている…という感じ。

「理想の一日」という一篇がとても面白くて、笑いながら読んだ。オチが良い。これを読んだ日、私も眠る時に理想の一日を思い描いてみたけど、お昼ご飯を食べる辺りで寝てしまった。とても幸せな眠り方を教えてもらえて良かった。
小川洋子のエッセイは、読むと日常の愛しさに気付けるので元気が出る。

honto.jp

ことばと思考

今年どハマりしている今井むつみの本。『ことばの発達の謎を解く』、『英語独習法』に続き3冊目。
「言語と思考の関係」「ことばの発達」「学びと教育」が研究テーマとのことだけど、この本では「言語と思考の関係」が掘り下げられている。
ことばは人の世界の見方、認識、思考とどのように関わるのかについて、発達心理学認知心理学脳科学の観点から語られる。

世界中で話される言語や人々の認識の普遍性についてや、逆に違いについて面白い例がどんどん出てくるのが楽しい!
そうした例を取りつつ、「言語が異なることによって、人の認識や世界の見方、思考は変わるのか?」という問いについて「言語によって世界の見方は多少変わってくる」としている。影響が全くないわけじゃないし、全然違う考え方をしているわけでもない、と。
それについては「まぁそうですよね…」という感じだけど、「言語が異なるかどうかよりも、言語を知る/学ぶ前と後」で世界の見え方や認識、思考が大きく変わるということが面白い。ここで「言語と思考の関係」「ことばの発達」が重なってくるんだな。『ことばの発達の謎を解く』と合わせて読んだのでこの辺りが理解しやすくて良かった。

honto.jp

和菓子職人 一幸庵 水上力

白央篤司がインスタで「千葉さんの本を読んでみよう」と言っていたので、気になって私も読んでみた。

日本の文化をお菓子で支えるという想いを感じる本だった。家庭で失われた習慣を、菓子屋が踏ん張って伝えるんだ、と。
こういうお菓子屋さんに通いたいな~。

修行では、言葉で説明するのではなくて本人が気付いて感じられるまで待つ、技術を学ぶだけではなくて主人がどんなことを考えているか肌で感じる、というような、修行についての話も面白かった。

 「これだ!」と思うようなものを作れるまでに十年。旦那は「こうするんだ」とは教えてくれない。注意はされる。ある日「これだ!」とわかる瞬間がきた。そこからは、それが基準になる。わかる人は五年でわかるし、一生かけてもわからない人もいると思う。

最近中国茶のレッスンに通っているのだけど、その先生もあまり言葉では語らない。「言葉でわかった気になっちゃうから」「いいお茶を飲み続けることで、お茶が教えてくれる」といつも言われている(ちなみに、「わからないままレッスンを終えてしまう人もいる」とも言われている…)。
職人の修行って古くさい、みたいなイメージもあるけども、感覚を身につけさせる一つのやり方なんだなと思ったし、今自分がお茶のレッスンで学ぼうとしているのもその類のものなのだな…と気付くことができた。

あと面白かったのが、お菓子を作る時に一つの原材料で作るのではなくていくつかを混ぜて平均値を取る、そうしていつも同じ味のものが出せるようにする、という話。
ワインとかは「この年はこういう特徴があります」って感じでいつも同じ味ではないことが一つの面白さだと思うけど、そういうものとは違う思想なのかなーと思った。それも、お菓子は茶請けであって茶をうまく飲ませるものだ、主役ではないのだという前提があるからなのだろうか。

青木定治との対談もよくて、いい一冊だった!

honto.jp

Shrink 精神科医ヨワイ(6)

かなりハマっている漫画。

あまり有名ではない気がするので一言で紹介すると、精神科医療版のコウノドリみたいな漫画(ちょっとざっくりすぎるか…)。
クライアントの生活にもかなりスポットライトが当てられて、医療に限らない様々な社会的サポートについても描かれる。

5巻から続くアルコール依存症編が完結した。アルコール依存を受け入れられないクライアントの父もまたアルコール依存だった…という形で、当事者だけではなくその家族の苦しみも描いている。そして当事者へのサポートだけではなく、周囲の人が受けられるサポートについても取り上げているのがいいと思う。
こういった問題を抱えた親子の関係が描かれるとなると「自分を傷つけた親を子は許さなくてはならないのか?」という話もあると思うけど(親を子が許す形で終わる作品が多い印象)、この漫画は「許さなくていい」というメッセージを何度も発しているのでいいなと思った(私は親との関係で大きく傷つけられたことが幸いにしてないので、判断が甘いかもしれないが…)。

あと、底つき体験が必須ではないと考えられるようになってる…とか、イメージと違う話が色々出てきたのが面白かった。軽症のうちにアプローチする、まずは断酒ではなく減酒から、とか、アルコール依存の治療について最近はこういう選択肢もあるんだな~というのがわかって良い。
漫画関係ないけど「アルコール低減外来」についての記事があったので貼っておく。
toyokeizai.net

そして新たに始まったのが産後うつ編。こちらもまた自分に近いテーマなので楽しみ!

honto.jp

ブルーピリオド

Webでちまちま読んでいたのだけど、hontoでまとめ買いセールをしていたので購入して一気読み!

いやー面白い、何かに夢中になって極めるということをしないで生きてきた大人には登場人物たちの熱さが刺さる…!
青春芸術漫画というか、熱血芸術漫画というか。芸術の見方とか歴史も出てくるけど、そこの配分が大きすぎなくてあくまで芸術に向き合う若者たちと大人たちの漫画になってるのがいいなって思う。しかもそういう話が唐突に出てくるんじゃなくて、ちゃんと物語のピースとして出てくるし。
スポーツじゃない分野でのこういう漫画ってあんまりない気がするから、こんなに面白い作品が存在してくれることが嬉しい。

honto.jp


今月読んだ中では『和菓子職人 一幸庵 水上力』が中国茶レッスンにも通じる内容だったのが良かった。修行ってピンとこなかったしいいイメージなかったけど、今自分がやってることって多分修行に近いものなんだな~と気付けたのは大きい。
そして自分が日本の文化を全然知らない…ということを改めて感じた。他国の文化に惹かれる気持ちを否定することもないと思うけど、そもそも日本の文化についてはそれと同じスタートラインにすら対象を置いていなかったのではないかという気がした。
この本を読んでから、ちょっと日本の文化を意識した生活をしてみている。なかなか難しいけれども!