2021年9月に読んだ本。とにかく散歩いたしましょう、批評の教室、夏物語、菜食主義者 (新しい韓国の文学 1) など

7冊読んだうち、特に面白かった4冊について書く。

※3,4個目の『夏物語』と『菜食主義者』についてはネタバレあり。

とにかく散歩いたしましょう

「女友達って最高だよね、大事だよね」という内容がちょくちょく出てくる本を読んだら悲しくなってしまったので、「本が友達」と言ってくれる本を読もうと思って再読した本。
人や動物との関わりも描かれてるけど、それと同じかそれ以上に本との交流も描かれていると思う。
本との出会い、交流をとても大事なものとして愛おしそうに語ってくれるので「そうだ、本はこんなにも人生に喜びをくれるんだ」と再確認することができる。私も小川さんのように本を愛したいなぁ。

小川洋子のエッセイは世界に対する目の向け方がとてもあたたかくて、優しい気持ちになれる。一篇が短くて文章も難しくないし、ちょっと心が疲れたなという時に読むのにとてもいい。

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批評の教室──チョウのように読み、ハチのように書く

どのように作品を読み、分析し、書くかをまるっと指南してくれる手軽だけどしっかりした一冊。
「今は普通に作品単体を楽しんでいるだけだけど、作品について少しでも語ったり、言葉にしてみたい」とか「大学で批評系レポートを書きたい、書く必要がある」とかいう人にいい本かな。私は前者にあたる。

書いている内容は基本的な当たり前のこともあると思うんだけど、説明する文章や例示の分析が面白くて、笑いながら楽しく読めた。こんな風に、いろんな切り口から作品を楽しんで、見つけたことを言葉にして人と交流できるって、豊かだなぁ~と思う。
少しずつでも実践して、様々な作品をもっといろいろな視点から楽しめるようになれたらいいなー。

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以下、『夏物語』と『菜食主義者』についてはネタバレあり

夏物語

かなり落ち込む読書だった。

私はこの本を読んだ当時から妊娠中だが、立場としては反出生ではないにしても「赤ちゃんが産まれるのは幸せなこと」というのにはやや懐疑的…というか、手放しにはそう思えないタイプの人間だ。思春期に精神的にバランスを崩して、母親に対して「なんで産んだんだ、こんなにつらいなら産まれたくなかった」と怒りをぶつけたこともある。
同じような気持ちを子どもが抱くかもしれない、そしてそれが解消されないで苦しむかもしれない、そう思うと、子どもを産むという行為の重大さが恐ろしい。

そう思っていたので、もしかしたらこの本を読むことで何らかの答えや救いを得られるかもしれない…と思いながら読んでしまったところが少しある。

私の考え方は、物語に出てくる善さんの「子どもを産むという行為は賭けである」(子どもが産まれてこなければよかったと思わない保証はない、産む側は、そう思わないでいられる方に賭けているが、その賭けが外れた時に苦しみながら生きていくのは産まれた子の方である)と「もう誰も起こすべきじゃない」というものに近かった。
なので、主人公と善さんの対話があった後、主人公がこの考え方に対して自分なりの答えを出すのだろうか?と期待しながら読んでしまったのだが、実際はただ主人公が「産む」という行為を行うだけだった。
AIDについてはあんなに理屈をつけて考えていた主人公だけど、子どもを産むという賭けを自分が行うことに対しての理屈みたいなものは一切描かれていなかった。
そこを掘り下げることも、それに対して何か主人公が思い悩むこともなく、ただただ、主人公が「産む」。そして、それに伴って柔らかで幸せそうな感覚を感じている。
結局、主人公にとっての出産は「会いたい」という一方通行の気持ちによって成り立っているものだった。エゴでしかないのだ、という終わり方だと感じた。
善さんの言葉に答えられるような思考や言葉はなく、ただそこにあるのは親のエゴだけ。
子どもを産むという行為が恐ろしく、何らかの答えや救いを得たい…そう思ってしまっていた私には手痛い終わり方だった。
そんなわけで、読み終わったら落ち込んでしまった。けど、ずっしりした物語を読むという行為そのものに癒された感覚はある。読み応えのある物語だった。

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菜食主義者 (新しい韓国の文学 1)

3つの連続する短編が収められた短編集。

1篇目の「菜食主義者」では、暴力からの逃れえなさが描かれていてとても悲しかった。
ヨンヘは夢を通じて肉食という行為が持つ暴力性にとらわれて苦しめられ、そこから逃れたいがために菜食になりたいと願っているのだと思う。
菜食によってその暴力性から逃れられるのかはさておき、ヨンヘがやりたいことは自分が食べるものを自分の好きに決めるということ。なのに、肉体的にも精神的にもあらゆる人から傷つけられる。時には愛をもって身内から傷つけられ、精神科に入院してもなお、嘘を吐いてまで肉食を強要される。
暴力から身を引きたいだけなのに、暴力によって引き戻されてしまう。あまりにも悲しくて泣いてしまった。

2篇目の「蒙古斑」は難しかった…。読んでいる途中は、ヨンヘの願いを理解できる人もいるんだな、なんて気持ちで読んでいたんだけど、途中から「わたしはYの視点で物語を読んでいる。性犯罪者が『自分は相手のことを理解している。相手も望んでいたことだ』と思考するような流れに無批判に乗っかっているのではないか?」という考えが浮かんできて、怖くなった。
Yの妻が行ったことが、ヨンヘとYに対する無理解の暴力だったのか?それともYが行ったことがヨンヘに対する暴力だったのか?ちょっとどう読めばいいのかわからなくなってしまった。おそらくYの行為は動物的な暴力ではなく、植物を指向するヨンヘに近いものだと読んでいいんだろうけど…。

3篇目の「木の花火」はヨンヘの見た夢の闇に一緒に沈んでいく…というか、そもそも自分が立っていた場所もヨンヘと同じ闇の中だったと気づいてしまうような話だった。けど、一番綺麗な話だと思ったな。空気がピンと張った冬の朝、踏んだらすぐにくしゃっとなってしまう霜のような、綺麗だけどもろくて儚い感じのある文章だった。
生きるとは、幸福とは、平穏とはいったい何なんだろうなあ…と考え込んでしまう物語だった。

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9月はとにかく、8月から読んでいた『夏物語』を読み終えたのが大きかった。しばらく落ち込んで、そのことについて考えていた。
小川洋子のエッセイを読むことで、落ち込みからは回復した感じ。こういう癒されるお決まりの何かがあるというのはいいね。

あと、『ゴールデンカムイ』無料公開が行われていたのでそれの一気読みもした。
歴史物としてかなり激アツ。「これでチタタプしてもいい?」(127話)が最高。
でもTwitterとかでバズってた「めっちゃ地獄だから心して読め!」とみたいなのはちょっと言い過ぎというか、そこまで地獄っぽいつらさは感じなかったな…最初は「いつになったら地獄になるんだろう?ワクワク」と読んでいたから物足りなさを感じてしまったけど、途中から「たぶん別に地獄ではないな!」と気付いて割り切ってから素直に楽しく読めるようになった。
読みながら「しかし現在は…」と現実のことを考えるとめちゃくちゃ暗い気持ちになるけど。
ゴールデンカムイ』と『ヴィンランドサガ』は物語…って感じのする熱い壮大な歴史漫画だなと思う。無事に完結してほしい。