2021年4月に読んだ本。1984年に生まれて、中国手仕事紀行、英語独習法、一九八四年〔新訳版〕

4月に読んだ本は4冊。 読んだ本がどれも面白くて、いい1か月だった。

1984年に生まれて

バーニングさんのブログをきっかけに読んだ本。いい本を読むことができました。感謝です。 burningsan.medium.com

1984年生まれの軽雲という女性を主人公として、1984年生まれの郝景芳が描く、自らの経験とフィクションとを織り交ぜた「自伝体」小説。

20代で今後の進路を模索する軽雲のパートでは2000年代の中国が、そして軽雲が生まれる前後、同じように今後の人生について悩む父・沈智のパートでは1984年の中国が描かれる。文化大革命が終わった後、資本主義的な空気が流れ込んできてもいるけれど規制もある沈智の時代と、国外への道が開かれて、国外に出る者もいれば国の発展を強く信じて国内で成功を目指す者もいる軽雲の時代。
どちらの時代についてもほとんど知識やイメージを持っていなかったけれど、軽雲・沈智の周囲の人々とのやり取りや、描かれる風景を通して、時代の空気を感じることができた。知識がなくてもスムーズに物語に入っていけたのは、著者の小説のうまさと、翻訳のうまさと、適切な訳注のおかげだと思う。

沈智と軽雲の「自分はこのままでいいのだろうか?」「自分は何をなすべきか?」という、生き方の不安や葛藤に共感しながら読み進めたが、だんだんと軽雲のパートでは個人の不安や葛藤ではなく、国・社会に対する不安や疑念が描かれていくようになる。
SF的な要素を除いて読んでも、個人として共感できる物語だし、SF的な要素を考慮すると、社会派な、批判的なSFであるようにも読めてくる。

エンディングはかなり驚きだったけれども、本・物語に対する愛情を感じるような終わり方だとも思った(非情であるようにも思えるが)。この本で描かれた物語だけでなく、他の本で描かれていた物語についても感情が沸き上がってくるような。
読み終わってから表紙を眺めると、最初に見た時とはまた違って見えてくる。中国語版の表紙は人物ではなく葉が少し落ちた木なのだけど、日本語版のこの表紙はまた面白い。

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中国手仕事紀行

なんとなく手に取ってみたら、お茶や食の話が思ったよりも多くて自分好みの一冊だった。
手仕事と言うと民芸品というイメージが浮かぶけど、確かにお茶も食もまぎれもなく手仕事だ。

TRANSITのこの前の中国号でお茶の記事を書いていたのはこの人らしい。この記事も良かったし、この人の紀行文、好きだなーと思った。
ちなみにTRANSITのこの号はどの地方にはどんな食の特徴があるのか?といったざっくりした話から、中国食品百科全書という特集で多種多様な食材の解説が細かく書かれていたりする。そして最近の食事情も書いてあってすごくいい。ほんとに永久保存版だと思う。 www.fujisan.co.jp

『中国手仕事紀行』の方に話を戻すと、どんな風景の村・街で、どんな人たちが何を生業に暮らしてるのか、そういう生活が描かれた文章でとても良かった。ただ、そういう目に映る風景の描写だけでなく、筆者の新鮮な感動みたいなものも素直に書かれていて一緒にテンションが上がる。
写真もしっかりカラーで大きく見られるのが嬉しいし、地図も載っているので地図と合わせて場所を確認できる。旅気分に浸れて、本当にいい一冊。

『中国・韓国 やきものと茶文化をめぐる旅』と一部の行き先が被っているので、あわせて読むと面白いと思う(こちらは今読んでいる途中)。 honto.jp

英語独習法

1月に読んだ『ことばの発達の謎を解く』に引き続き、認知科学の研究者である今井むつみさんの本を読んだ。

今井むつみさんの研究テーマは「言語と思考の関係」「ことばの発達」「学びと教育」で、この『英語独習法』はこの3つのテーマが重なるところにある本だという。読んでいると、「英語学習者として実践したい」と思う箇所もあれば、このようなテーマに興味がある読書家として読んでいて面白い箇所もあった。
人の知覚、記憶、思考や学習のしくみはどうなっているのか?というのが認知科学で、この本はそれを説明した上で「だから、このように学びを進めていくべきだ」と提示する。もちろん提示される独習法というのも有用だしそちらが本題なのだが、そもそもの認知科学の部分の説明を読むだけでも十分面白い。

スキーマというのが重要な概念として出てくる。「一言でいえば、ある事柄についての枠組みとなる知識」で、例えば母語についての知識もスキーマの一つだという。母語で言葉を話す時、主語だとか述語だとか、過去形だなんてことは意識せずに話しているが、こうした無意識にアクセスされる知識のシステムがスキーマ
外国語を学習する際には、このスキーマを構築していくことが鍵なのだという。
認知行動療法の本を読んでいてスキーマという概念が出てきて、自分の精神を安定させる上でかなり役立ってくれた(と思っている)のだけど、言語について学んでいてもこの概念が出てくるとは。

個人的に、「人は世界をどのように見て、どのように評価しているのだろうか」ということに強い興味があるので、今井むつみさんの書かれる認知科学の本はどれも面白い。『ことばと思考』『学びとは何か』なども読みたい。

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一九八四年〔新訳版〕

途中まで読んで積んでいたものを、『1984年に生まれて』を読んで慌てて読了。

監視社会の恐ろしさ。監視社会を描いた作品ではないが、映画のサトラレを見た後のような「知られているかもしれない」という怖さが湧く。

とても暗く、絶望的な話なのだが、『次の夜明けに』を読んだりした影響かわからないけれど、プロールに関する記述や附録の文章が強く印象に残って、希望が全くない話ではないと感じた。SF恐怖小説でありつつ、物語を通して「民衆が力を出すことでこのような恐ろしい社会も覆せる(その到来を防ぐことができる)」と人々に語りかけているようだと思った。

解説がないと知らずに電子書籍版を買ってしまったので、ピンチョンの解説は読めず。

かなりキレました。

文庫を電子書籍化したときに解説を省く慣例はほんとに改めてほしい - Togetter こちらのまとめ(2015年)にあるように、どうやらそれが慣例らしい。6年前から状況変わっていないってどういうこと!
どうやらレーベルによっては解説が収録されているものもあるみたいだけど…購入前に確認するのが難しいから、あんまり電子書籍で小説を買うことはないだろうな。

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2,3月に引き続き、中国に関連する本を多く読んでいる。お茶教室に通っていたり、中国語を勉強し始めたのもあって興味がそちらに向いている。
今は岩波新書の〈シリーズ 中国の歴史〉というのが気になっている。今読んでる本が落ち着いたら、読んでみたい。

あと、認知科学についての興味を再確認したので、入門書など読みたいなあと思った。
『ことばの発達の謎を解く』と『英語独習法』の両方で参考文献に挙げられている『心と脳――認知科学入門』が良さそう。

ブログを書くことにしたことが影響しているのか、去年よりもたくさん本を読めている気がする。結果、いい本との出会いも多い。
なかなか外食や行楽は気楽に楽しめない時世だけれども、読書で楽しむことができる人間なので、あまり外には出ずに家で読書を楽しめたら…と思っている。